レクタルヴ神話  一


 古、この地は全てが忌まわしく白い〈雪〉に覆われた絶望の大地だった。故に今の名――白き座「レクタルヴ」があるのだが。
 息絶えた森、荒れ狂う海原、延々と荒野。乾いて痩せ衰えた地には、日々白い〈雪〉が積るばかり。いつになろうと溶けて姿を消すことなく、土や人を潤さぬ終末の雪だ。生きるものの体にも、心にも、病が満ちていた。
 けれど山は高く、川は激しく、海は渦を巻き、荒れ果てた地は閉ざされている。住まう者は皆嘆いて暮らしていた。
 しかし救いは訪れた。あるとき天を渡っておられた慈しみ深く偉大なる〈角の主〉は、この地を憐れまれ、涙を流した。その清らなる雫の一滴が白く蝕まれた地を打つと、長らく黙していた大地は微かに息をしたという。温かき雫で溶かされた、雪の下で。
 それをご覧になられた白き角の主は輝く雲を纏い、慈悲の水を引き連れ天を降った。
 我々の祖は見たのだそうだ。光が粒となり注ぐ様を。降り注いだ輝く〈雨〉は呪いをすべて溶かし、大地を洗い、潤した。それからというもの、レクタルヴは見違えるようになった。森は繁り、花は咲き、住まう者すべては笑った。
 以後、主はレクタルヴの中央、その御姿に似て聳え立つ〈角の地〉にお住まいになり、この地を守護する土地神となられた。主の雲は角の突く天の上に残り、季節の移り変わりと共に形を変え空を渡っては、周辺の地に恵みを与えている。未だ〈冬〉は居残り〈雪〉は根深く、完全には消えてはいないが――主の加護、まったき奇跡はたしかに続いているのだ。
 だからレクタルヴに興った三国の人々は全て、角の地と、雲と雨を仰ぎつづけているのだ。

――土地神〈角の主〉の神話/〈冬の地〉再生伝説




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